托卵とは、ある鳥が他の鳥の巣に卵を産み落とし、その後の抱卵と育成をその巣の主に任せてしまう行動である。日本では古代よりホトトギスがウグイスに托卵することが知られていた。またカッコウの托卵も著名である。
さて、標題の「白鳥の托卵行動」についてである。これについては、聞いたことがないかもしれないが、実は1843にデンマークでの報告が1例ある。ある高名な研究者が白鳥の託卵について報告している。この研究家は、燕の渡り研究や、少女の白昼夢を素材とする防衛反応の研究、など幅広く興味を示した人物で、小説家としても知られている。
一般に托卵は、托卵される鳥のものと大きさや色、形がに似ていて、孵化期間も托卵する方が短期間である。例えば先に孵化したカッコウの雛は、モズの卵を巣から押し出し、親鳥からの餌を独占する。知らぬはモズの親鳥だが、それは仕方がない。
彼すなわちアンデルセンの報告によれば、白鳥の卵は家鴨よりも大きいという。これは他の事例とも整合するのだが、奇妙なことに、孵化するのは、家鴨よりも遅く最後であったという。一般に最後に孵化した場合、他の雛の成長の方が先行するため、餌を十分もらえず餓死するか、巣の中で圧迫しする危険性が高い。にも関わらず、白鳥の雛は家鴨の雛と比べても、大きく成長したと報告している。 アンデルセンの報告以後、白鳥の託卵行動は報告されていない。彼の報告の背後には何らかの企(たくら)みがあったのではないかとの疑いもあり、今後の研究が待たれるところである。
(11号)